(1)ディスレクシアの子どもをひとりも見過ごさず成長できる環境整備を、いますぐに

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まとめ

保護者の方からご相談を受けたことから、ディスレクシアに関する網羅的な質問を行いました。小平市立の小・中学校に在学する子どものうち、潜在的に約330人が読み書きに著しい困難さを抱えています。しかし、判明しているのは56人だけです。この障害は自分も周囲も気付きにくく、自信喪失から不登校や鬱につながる可能性があり、早急に対応する必要があります。しかし、事前の確認では、市職員の部課長レベルであっても、障害のことや、問題があることを把握している人は非常に少ない状況でした。そこで、今回は「職員(と議員)への周知」を質問のひとつの目的にしました。以降の一般質問でも、続けて2回()取り上げています。また、その過程で学んできたことを、すべてこちらのページにまとめています。

  • 市立小・中学校在籍のディスレクシアの児童・生徒数推計は → 一定数あると認識
  • 実際にディスレクシアと診断された児童・生徒数は → 把握していない
  • 読み書き困難な児童・生徒数は → 特支教室利用児童48人、巡回相談で報告8人
  • ディスレクシアの児童・生徒を見過ごさないアセスメントは → 統一アセス未実施
  • 統一したアセスメント未実施の理由は → 気付きの中でチェックし巡回相談に
  • 小平市にアセスメントを実施している学校はあるか → 把握していない
  • 統一アセスメント構築チームをつくっては → 特支教育の推進に向けた検討進める
  • 教育現場でディスレクシアの周知徹底はどう実施 → 発達障害や学習支援の研修で
  • 研修内容を市のサイトにアップロードし共有しては → 教員の分析コードを深める
  • 研修資料作成に当事者含めては → 機会捉え内容等見直しの際さまざまな声を聞く
  • ディスレクシアへ合理的配慮の現状は → プリント工夫、タブレット使う学校も
  • デイジー教科書の再生装置は無償提供される解釈か → 物的配慮は進める必要

残念ながら的を射た答弁は得られませんでした。障害の発見を、個々の教員の気付きだけに頼ろうとする、よくない方針があることも分かりました。しかし目的のひとつであった「周知」に関しては達成できたと思います。この一般質問の後、職員の研修に読み書き障害のことを組み込んでもらえることにもなりました。また、これ以降2回続けての一般質問や、それ以外の場面でもテーマとして取り上げているうちに、徐々に市側の答弁も変わって来るのを感じました。保護者の方が審議会の委員として参加され、積極的に問題点を伝えていらっしゃることもあり、職員の認識や意識も変わったようです。

初回質問・初回答弁

 見えない障害と言われるディスレクシアは、知的能力や理解能力には異常がないにもかかわらず、読みと書きの学習に大きな困難を抱える学習障害のひとである。この障害については、近年、さまざまな場面で取り上げられているものの、十分に周知されているとはいえず、また、実態も適切に把握されていない。当事者の子どもたちにとっては、自分は頑張っても勉強ができないと誤解したり、周りからは勉強が足りないなどの誤解を受けたりして苦しみ、不登校や鬱病に至る場合もあるなど、一大問題であるため、一人も見過ごしてはならない障害である。

 文部科学省の調査によると、読むまたは書くに著しい困難を示す子どもの割合は、平成14年時点で2.5%、平成24年時点で2.4%とされており、たとえば小平市立小学校の令和元年5月時点での通常学級児童数9,731人で計算すると、200人以上が苦しんでいる可能性がある。しかし問題は表明化していない。授業でのタブレット使用状況などから考えれば、適切なアセスメント(客観的評価とそのプロセス)が行われていないために見過ごされ、人知れず学校が嫌いになっている子どもが多数存在する可能性が高い。実態の把握はもちろんのこと、ゆとりのある環境整備と、少なくとも教育現場における周知徹底が早急に必要である。

🏫 中学生も含めると約330人

こちらの要旨には小学生の数値しか書きませんでしたが、小平市立中学生の潜在数も含めると、合計約330人です。なお、1年後の時点では(児童・生徒数が増えたため)、約340人になります(後述)。

 なお、見えない障害である学習障害は、ほかにも聞く、話す、計算する、推論するに困難さを感じるケースもあるが、それぞれ対応が異なり、今回は、論点を集中させるため、ディスレクシアに限定した質問を行う。また、ディスレクシアという用語には広義の意味があるため、ここでは、読み書きに障害があると診断された、もしくは診断を得ていなくとも著しい困難を感じている状態または人とする。

 以下、小平市に質問する。

Q1. 小平市立小・中学校におけるディスレクシアの児童・生徒について、潜在数をどう見積もっているか。そのうち実際に障害と診断された、もしくは困難さがあると把握している人数は。

A. 教育長(古川 正之) 文部科学省の調査結果の示すとおり、一定数あるものと認識している。ディスレクシアと診断を受けた児童・生徒の実人数は把握していないが、読み書きに困難さを抱えている児童・生徒数としては、特別支援教室の利用児童が48人、また、巡回相談を通して学校から読み書きに困難さがあると報告のあった児童・生徒が8人。
😨 潜在数に対し、見つかっている人数があまりにも少ない

潜在数330人から、見つかっている56人(48人+8人)を差し引くと、270人くらいはまだ見つかっていないという計算になります。

Q2. 小平市立小・中学校において、ディスレクシアの児童・生徒を見過ごさないためのアセスメントをどう行っているか。また成果は。

A. 教育長(古川 正之) 現在、市で全児童・生徒を対象とした統一したアセスメントは行っていないが、学校を定期的に訪問する言語聴覚士を含む巡回相談員の行動観察等や、特別支援教室および通級指導での指導を申し込んだ際に受ける就学・転学相談における発達検査や行動観察等で、児童・生徒の抱えている読み書きの困難さを把握している。成果としては、把握した困難さについて、さらにアセスメントを進めるために、各種検査の実施や支援体制を検討できるとともに、実際に個別指導に活用できること。

Q3. 教育現場において、ディスレクシアに関する周知徹底をどう行っているか。

A. 教育長(古川 正之) 読み書き障害を含む発達障害や学習障害についての研修を行っている。また、支援が必要な対象児童・生徒がいる学校では、ディスレクシアに特化した研修も行った例がある。

Q4. 小平市立小・中学校における、普段の授業でのディスレクシアの児童・生徒に対する合理的配慮の現状と課題は。

A. 教育長(古川 正之) 書くことが困難な児童・生徒には、書くスペースを大きくしたワークシートを利用したり、書く量を減らしたりするなどの配慮を行っている。読むことが困難な児童・生徒には、プリントの文字を大きくしたり、行間を広げ、ルビを振るなど、読みやすいプリントを作成したりする工夫をしている。また、教科書を読むことが困難な児童・生徒には、個々のニーズによりタブレット端末を用いて、音声による補助を行うなどの配慮を行う学校もある。

課題としては、以下を認識している。

  • 個々のニーズに応じた配慮をきめ細かく実施するためのアセスメントをさらに充実すること
  • 合理的配慮を実施するための環境を整備すること
  • 教職員への研修、理解啓発のための資料を提供するなどして、読み書きに困難がある児童・生徒への合意的配慮の理解を深めること

Q5. 上記以外の市のサービスを使用する上でのディスレクシアに対する合理的配慮の現状と課題は。

A. 市長(小林 正則) 市役所や公共施設の窓口等において、障害のある方への対応の向上を図るため、小平市職員の障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要綱に基づき、不当な差別的取り扱いの禁止や合理的配慮の提供を柱として市職員への研修を実施し、理解や啓発に努めている。発達障害の特性には、さまざまなものがあることから、今後、研修の際に使用する資料等の見直しを行い、ディスレクシアを含めた発達障害の特性の理解を職員に啓発し、障害のある方への窓口対応がさらに向上するよう努めていく。

再質問・答弁

 (内容が多岐にわたるため、見出しと目次をつけました)。

目次

 ディスレクシアに関してはこれまでも議会で何度かデイジー教科書との関連で取り上げられている。しかし、(市職員のうち)管理職においてもピンとくる方はまだ少ないようだ。

障害の状況

 読み書き障害の状況は、人によってさまざまある。通常、文字を見るとその読みが自動的に頭に浮かび(これを音韻処理というが)、読むことが困難な方の場合はそれが自動化されず、たとえば次のような状況がみられる。

  • 一文字を読むのに時間がかかる
  • 文字を読み間違える
  • 読むだけで疲れてしまい、意味を理解できない

また、書くことが困難な方でも次のようにさまざまある。

  • 単語の文字が足りない
  • 文字が入れかわる
  • 文字の左右が逆になる
  • 漢字の部首が入れかわる
  • 漢字の部首がなくなる

気付きにくい障害

 これは本人も周りの人もなかなか気付きにくい障害だ。たとえば学校の生活では、

  • 紙の教科書や紙の辞書を使う
  • テストで問題用紙を読み、解答用紙に書く
  • 先生の板書をノートに書き写す

といったことに一つ一つ困難さがある。しかし、なかなかそれが表面化しない。なぜなら、理由のひとつとして、ディスレクシアの子どもは知的に障害がなく、逆に記憶力が優れているか、もしくは鍛えられている場合があり、また、小学校に入学して最初のころの授業は、先生の話を聞いていればどうにかなってしまうことがあるからだ。そのため、自分も周りも障害があることになかなか気付かない。しかし、読めない、書けないことから、本人は無意識にストレスを感じ、読み書き自体を避けるようになる。すると周りからは「この子は怠けている」とか、「勉強する気がない」などと見なされてしまい、やる気をなくしていく。つまり、これは周りから気付かれにくいものの、けっして一人も見過ごしてはいけない障害である。

迅速に対応する必要がある

 今回、小平市の学校に通う、ディスレクシアであるお子さんをお持ちの保護者の方からご相談を受けたことがきっかけで質問している。その方にたくさん教えていただいた。私も具体的なことはまったく知らなかった。調べていくうちに、これは個人の問題だけではなく、小平市全体の問題であり、主に次の2つの理由から、とにかく早く対処しなくてはならないことが分かった。

理由1:取り残されている子どもが確実にいる、しかも数が多い

 まず、潜在的な人数の多さ(に着目する必要がある)。通告書に書いた「文部科学省の調査」とは、平成14年と平成24年に行われた『通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査』のことであるが、つまり、18年前と8年前の2回、文科省が大規模な調査を行っている。調査対象は公立小・中学校の児童・生徒で、それぞれ人数は約4万人と5万人であり、統計的にも十分な母数の調査であった。

 この調査の結果、「読む」または「書く」に著しい困難を示す子どもの割合は、10年経ってもほぼまったく同じ割合で、2.4%~2.5%であった。2.4%を使って計算すると、小平市立の小・中学校では合計約330人になる。

「読む」または「書く」に
著しい困難を示す子どもの割合
平成14年調査2.5%
平成24年調査2.4%
🏫 令和2年5月時点では、約340人

児童・生徒数が増えたため、令和2年5月1日時点では約340人になります。

小平市立小学校10,072人 + 小平市立中学校4,083人 = 14,155人

14,155 × 2.4% = 339.72人

 330人は結構な人数であり、驚いた。また、潜在的人数がこんなに多いのに、問題が表面化していないのはなぜだろうと考えた。「人知れず不登校になっている子どもたちがいる」のではないだろうか。

理由2:二次障害が子どもの未来を奪う

 一般に「二次障害」と言われる問題がある。先ほども触れたが、ディスレクシアの子どもたちは、知的にはほかの子どもたちと変わらない。しかし、読み書きができないことで、「自分は勉強ができない」と誤解したり、周りから「なぜ怠けるのか」「頑張っていない」などの誤解を受け、自信を失ってしまう。モチベーションを失い、学校が楽しい場所ではなくなり、場合によっては、不登校になり、鬱になる。これを二次障害ということがある。逆に考えると、不登校の子どもや、ひきこもりの人たちの中には、かなりの数でディスレクシアの人が隠れているのではないだろうか。

絶対に見過ごしてはならず、迅速に対応しなければならない

 つまりこれは絶対に見過ごしてはいけない問題で、対応を急ぐ必要がある。子どもにとっての1年間はとても大事だ。たった1年の(対応の)遅れが、子どもにとっては大きなダメージになることがある。大人の時間感覚で考えてはいけない。

2.5%は最低限の数値

 まず、(市として)潜在数を把握することは非常に重要なことである。なお、2.4%から2.5%という数値も、最低限として捉えたほうがよい。文科省の調査結果報告書にも「この調査では全数把握できない」という趣旨のことが書かれている。実際は、2.4%から2.5%より、もっと多い数の児童・生徒が、困難さを抱えている可能性が高い。

Q. 市としてどれくらいの潜在数を見込んでいるか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

文科省の調査もあるが、研究者によると、日本におけるディスレクシアの潜在割合は5.0%、欧米では10%という数字もある。一定数はあるものと認識している。

Q. 5%や10%であれば、もっと深刻な問題だ。なぜ見積り数値を決め打ちで言えないのか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

はっきりした診断が出ていることではなく正確な数は言えないが、一定数あると認識している。

 ディスレクシアの診断がなくとも、読み書きに著しい困難を示すことは同じであり、文科省もその前提で調査している。また、実際に診断を得るのはハードルが(非常に)高い。内部で潜在数を見積もっている(はずだと思うが)公表してほしい。

現行の巡回相談では見つけきれない

Q. 『小平市特別支援教育総合推進計画・後期計画』の平成30年度実績には、巡回相談員は11人で1校当たり年間5~7回巡回していると書いてある。それぞれの職種の方(臨床発達心理士、言語聴覚士、作業療法士)が学校に滞在する頻度と時間帯は。その際、特定の子どもが観察の対象になるのか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

それぞれの割合は、手持ちの数がないためここでは回答できない。言語聴覚士については、学校の要請に応じて行っており、昨年度は巡回した。ディスレクシアについては言語聴覚士が一番専門性が高く、アセスメントに近いことやコンサルテーションができると考えている。

Q. 年に19回ということだが、1回当たりどれぐらいの滞在時間か。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

平均での時間は、今回答できない。実際に授業を見て、子どもの状態像をつかみ、そのうえで、この子どもにはこういう支援が必要だというコンサルテーションも含めるので、1時間や2時間ではないと認識している。

 詳細がわかったら後で教えていただきたい。小学校で305クラス、中学校で115クラスあり、19回では全然足りない。すべてのクラスも回れていないだろう。しかも一日中いるわけでもない。時間的な経過を見るのも難しいと思う。

Q. 巡回相談員が行動観察した結果は、保護者や本人に説明があるか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

巡回相談員の巡回結果は、基本的には、学校に対して指導や支援のあり方等をコンサルテーションするため、保護者等に説明があるものではない。しかし、求めがあれば、できる。

巡回している現場の方は頑張られている。しかし、母数が330人ぐらいいて把握できたのが8人というのは非常に少ない。1年間で言語聴覚士が19回しか回れていない状況なら当たり前だ。

そこで、2問目の「全校で統一したアセスメント」が重要になる。

子どもをサポートする体制を、協働作業で分かりやすくしよう

 脇道にそれるが、「子どもに対して、どれだけのプレイヤーが、どれだけのサポートを提供しているか」が保護者には非常にわかりづらい。せっかくサービスを構築しても、それが利用者に知られず、十分活用できなければ、最大の効果は発揮されない。

 子どもをサポートするプレイヤーは、たとえば次のような方々だ。

  • 巡回相談員
    • 臨床心理士
    • 言語聴覚士
    • 作業療法士
  • 巡回指導教員
  • 特別支援教室専門員
  • スクールカウンセラー
  • スクールソーシャルワーカー
  • 特別支援教育支援員
  • 特別支援教育コーディネーター
  • 医師

こういうプレーヤーがどれだけいるか、それぞれの役割は何で、誰に報告され、その結果どうなる、といったことを保護者にわかりやすく示す必要がある。

 先週行われた小平市特別支援教育専門家委員会でも、「保護者にコーディネーターのことが伝わっていない」という意見が相談員から出ていた。「校長先生に相談しているとき、隣に先生が来たが、この人が一体何の役割をしているのかわからなかった」と。これは一歩間違えれば、不信感を招いたり、威圧的に感じられたりする可能性がある。

Q. そこで提案だが、対象となる保護者の方々にワーキングチームに参加していただき、「市は子どもにどういったサポートを提供しているのか」についてわかりやすい冊子を作成したり、校長先生と相談している場面でコーディネーターの方がきたら、「この人はどういう人ですよ」「この人がいることで、情報はどういうふうに回っていきますよ」といったことをちゃんと説明するようなこと(気を付けるべきこと)が記載されたガイドラインを作成してはどうか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

困り感のある子どもを支援するのは、たしかに学校だけではなく、さまざまな方がいる。保護者の方とも協力していくことが重要。今のご提案は、どういった形ができるか、今後の研究課題にする。

ぜひお願いする。職員の方々は日々の仕事で手いっぱいだろう。保護者の立場に立って資料を作成するのも、想像力を使う難しい作業だ。だからこそ、なるべく、市の製作物を作る際には、外部の、(事情をよく知っている)方々に主体的に参加してもらう(のがよい)。「市民との協働」と市長はよく言うが、働き方改革も含め、そういう(実効的な)ことをしていかなければならないと思う。

Q. 市のほうで報酬を出すなりして、期間限定もしくは不定期でも、本当に詳しい市民の方に、協力員のような形で市の仕事に参加してもらうという仕組みはできないのか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

学校教育では、会議等もそうだが、専門家や公募市民の方に入っていただいている。こういう機会をより広く行うことも重要と考える。現在は専門家に入っていただくことで、施策等についての評価や改善方法などを提言してもらっている。市民の方にどのような機会に入ってもらうかや、入っていただいてどういったことが今後のよりよい特別支援教育につながるのかは、研究していきたい。

全体的なアセスメントをなぜ行わないか

 2問目のアセスメントについて。市は現在、全児童・生徒を対象としたアセスメントは行っていないという答弁だった。しかし、アセスメントを行うための材料は豊富に提供されている。たとえば東京都教育委員会は、DVDつきで、小・中学校向けの丁寧で網羅的なアセスメントマニュアルを提供している。アセスメント後の個別指導に関しても、具体事例も含めた理論と実践の冊子や、保護者に対する説明用の書式までも用意しており、非常に行き届いた材料を提供している。

📚 東京都教育委員会が提供している資料

東京都教育委員会のアセスメントマニュアル等

Q. そういった豊富な材料を前にしても、小平市がこういったものを活用して、全児童・生徒を対象としたアセスメントを現在行っていない理由は何か。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

私どもが捉えているアセスメントは、評価、診断等々、中身をより具体的に詳細に深く見ていくというところ。子どもたちの困り感に気付いていくことに関しては、東京都教育委員会の資料もそうだし、私ども教育委員会から「通常の学級における特別支援教育の推進」ということで、環境調整における「こだいらこれだけは」というふうなあり方、それから、気付きの中で、学習面や行動について、文字をよく聞き間違える等々のチェックリストがあり、こういったことから気付いていき、その後、巡回相談につないでいく、といったことは取り組んでいる。

(注) 教育委員会が言っているアセスメント

この答弁にある2つの取組みは、次のとおりです。残念ながら、いずれも適切なアセスメントとは言えません。

(1)こだいらこれだけは

「こだいらこれだけは」というのは、小平市が平成24年度からすべての小・中学校で「小・中連携教育」というものを展開している中で、5つ挙げられている視点のうち「特別支援教育」に対応するプログラムのことです。

視点プログラム名内容
学力向上学力アップ
チャレンジ
読書活動の充実
「春休みの生活と学習」の充実
体力向上体力アップ
チャレンジ
体力テスト記録個票の継続
日常的な体力向上の取組
健全育成大切な自分、
大切なお友達
「自分のことも友達のことも大切にする」
標語・ポスター
児童会、生徒会活動の連携
特別支援教育こだいらこれだけはユニバーサルデザインの充実
(ホワイトボード等の活用等)
個別指導計画、学校生活支援シートの充実
首長を4タイプに分類
個別指導計画とは、
「学校生活支援シート(左画像)」
を踏まえ、学校が作成する短期的な
実行計画。学校での学習面・生活面
の指導目標や指導内容、方法等を具
体的に盛り込んで、これに基づいて
指導・支援を行うもの、とのことで
す。
キャリア教育ふるさと小平から
世界にはばたく
人との関わりではぐくむ自尊感情の向上
(異年齢集団交流等)
ふるさと小平を大切に思う気持ちの醸成
令和2年度小平市の教育(学校教育の項)より
特別支援教育に関わるリーフレットより
こだいらこれだけは:通常学級での対応

① 子どもが見通しをもてる授業展開
ホワイトボードなどを活用し、1時間の授業の流れや作業手順、注意事項等を事前に示す。

② 情報刺激の少ない教育環境づくり
黒板は全面使用できる状況にする。教室(特に黒板周り)の掲示物を精選する。

③ 時間の感覚を視覚・聴覚などで提示(小学校)
作業や考える時間を事前に示す。視覚的に時間が減っていくことが分かるタイマーや聴覚的に時間が分かるキッチンタイマーなどを活用する。

④ 子どもにとって分かりやすく、見やすい配布物(中学校)
注意事項や指示を分かりやすく記載する。配布物のレイアウトを見やすくする。

いずれも、読み書きが困難な子どもに特化したものではなく、行動障害の子どもへの対応とひとくくりにされているようです。

(2)気付きのチェックリスト

これについては詳細がなく、どういう意味で答弁したものか不明なため要確認です。しかし、「教員の気付きに頼る」という前提は、網羅性や教員の負担増という面から欠陥があります。

個別の児童・生徒を対象にしたことも必要だが、すべての児童・生徒を対象にした統一アセスメントを行わない限り、「一人も見逃さない(取り残さない)」ということはできない。

Q. 東京都が示しているようなマニュアルにしたがって、学校単位で全児童・生徒を対象にしたアセスメントを実施しているところ(学校)はあるか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

学校単位で実施しているかどうかは、把握していない。

非常に重要であるため、ぜひ把握していただきたい。子どもたちのことは、待ったなしで、先手を打ってやる必要がある。18年前から文科省が調査している。それだけ問題があるということ。東京都の「発達障害教育推進計画」ができたのも、もう4年前だ。

Q. 全体的なアセスメントについて、実施もしくは少なくとも計画があってよいくらいなのに、見えてこない。なぜか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

アセスメントという言葉の解釈の問題もあるかもしれない。アセスメントという形ではないが、子どもたちの困り感について気付くことについては、教育委員会もそうだが、学校の中で校内研修等を通し、教員に気付きの分析コードを持(たせる)ということは取り組んでいる。

日常的にかかわっているのは、学級担任や授業をやっている教員。その者たちが気付きをもとに、その子に困り感があったことをより詳しく見ていくためのアセスメントにつないでいくことに関しては、小平市教育委員会としても積極的にやっていきたい。

😥 担任や教員の気付きだけに基づくアセスメントは間違い

担任やその他教員の気付きだけによって読み書き障害を発見するというやり方は、次の理由などにより、間違えていると私は思います。

  • 個々人の判断力や認知能力等に依存し、網羅せず、一貫性、再現性がない
  • 教員の負担が増える

東京都教育委員会などが提供している、全体的で、再現性のある、一貫したテストによりまず判断し、さらに個々の担任や教員の気付きを加えて判断することが好ましいと思います。なぜかたくなに東京都のアセスメントをやらないのか、理由は別のところにあるのだろうと思います。

 「一人も見過ごさない(取り残さない)」という観点からすると、足りていない。

特別支援教室や通級への申し込みから判断するやり方ではダメ

 また、答弁では、読み書きの困難さを把握するのは、特別支援教室および通級指導での指導を申し込んだ際の、「就学・転学相談」における発達検査や行動観察等で行っているとしていた。つまり、保護者が子どもに障害があることをなんとなくでも認識していて、かつ保護者が、自分の子どもを特別支援教室や通級の指導に通わせるために申し込むことを決心した、その際に初めて検査を行い、把握しているということだ。これはひとつ必要なことだが、この方法だけでは、対象者は限定的にならざるを得ない。

スタート
スタート
YES
YES
YES
YES
NO
NO

保護者が
「子どもに障害がある?」
と気付いた

保護者が「子どもに障害がある?」と気付いた...
NO
NO

保護者が
特別支援教室や
通級指導への申込み
を決心した

保護者が特別支援教室や通級指導への申込みを決心した...
発達検査
発達検査
行動観察
行動観察
判明しない
判明しない
判明?
判明?
ハードルが
高い!
ハードルが 高い!
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 なぜなら、まずディスレクシア(読み書きが困難)の子は、先ほど言ったように、そもそも本人が障害だとなかなか気付かない。また、ほかの子と比較できなかったり、低学年ではごまかせてしまう部分もある。保護者はなんとなく気付く人もいるかもしれないが、共働きなどで勉強にじっくりつき合えないような場合は、テストの結果だけを見て「うちの子は勉強ができない」と誤解される方も多いだろう。また、小学校入学前の段階では、読み書きは入学してからでもよいと、そんなに気にされない方もいる。

 つまり「特別支援教室や通級の指導申し込みをしたほうがよいかな」と考えるところまでは、なかなか到達しない。到達したとしても、実際に申し込みをするというのは、保護者の心理としては非常にハードルが高い。先週の小平市特別支援教育専門家委員会でも同様なことが指摘されていた。

申し込みのタイミングまで待つやり方は、時間的な問題も大きい。申し込みに至るまでは、本人も保護者の方も苦しい時間を過ごす。その間に子どもが学校に行かなくなってしまうケースもあると思う。

Q. つまり、特別支援教室や通級の申し込み時にアセスメントを行う方法は、全校統一して行う網羅的なアセスメントの代替手段にはならない。正しいか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

発達検査等の知的テストを通したアセスメントという意味では、たしかにならないと考えている。ただ、気付きということに関しては、日常的にかかわっている学校現場の者が気付くことが重要。その気付きの分析コードや質を高めるということは、私ども推進していかなければならない。

 巡回相談員では限定的、特別支援(や通級)申し込み時の検査で見つける方法も限定的。すると「ディスレクシアの子どもを一人も見過ごさない(取り残さない)」ためには、全校で統一したアセスメントの設定と、フィードバックによる継続的な改善作業が必要だ。もう一度聞いても同じ答えが返ってくるので、再度聞くのはやめる。

第一人者である稲垣先生に全校統一のアセスメント構築を手伝っていただくのはどうか

 ひとつ提案として、小平市の国立精神・神経医療研究センターには、稲垣真澄先生というディスレクシアの第一人者がいらっしゃる(注・令和元年度末で退任され、鳥取に移住されました)。発達障害の研究部長をされており、厚労省や文科省の主任研究員も務められた方。ディスレクシアを含めた学習障害のアセスメントに関し具体的な提言を行っていらっしゃる。非常にさまざまな方面で御活躍をされている。

 この4月にも、学校に入る前の保育所や幼稚園の段階で、学習障害の子どもを見つけるためのアセスメントに関する書籍(こちら)を出版される予定。小平市では特別支援教育専門家委員会にも参加していただいている。発達障害のアセスメントに関し「日本で最も詳しい」と言えるような先生が小平市で働いていらっしゃる。

Q. 稲垣先生にご参加いただき、統一したアセスメントを構築するワーキングチームを作ってはどうか。そうすれば、小平市が日本国内もしくは世界的にも、先進的な自治体になる可能性もある。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

ディスレクシアに限ったことではないが、稲垣先生にはたしかに小平市特別支援教育専門家委員会にも参加していただき、助言いただいている。先生のさまざまなご助言を踏まえ、今後の小平市の特別支援教育の推進に向けた検討は進めていきたい。

委員会は時間がなく、実際に手を動かして何かをすることのない場所なので、私は、委員会でご意見を伺うのは限界があると考えている。

周知に関する研修を録画し、誰でも見られるようにしてはどうか

 3問目の周知について。特定の子どもや保護者だけではなく、すべての子ども、それからすべての保護者、すべての学校の先生に対しての周知が必要だ。

 その際、気を付ける必要があるのは、「学習障害」とひとくくりにしないこと。それだと抽象的になり、記憶に残らない。

  • 読み書きに困難があるとはどういうことか
  • 何が大変なのか
  • どうすればそういう障害を見つけることができるのか
  • 見つかったとしても、どう対応すれば学習を助けられるのか

そういったことを一つ一つ具体的に示す必要がある。

 ディスレクシアに特化した研修を一度実施したということだが、これは校長先生が非常に理解のある方で、1学年すべての児童・生徒に対し、パワーポイントで講義をされた。そういう先生がいらっしゃるというのは非常にすばらしいこと。1回限りの講演で終わるのはもったいない。たとえばその講演を動画で残し、市のホームページに公開したり、パワーポイントの資料を公開したり、そうするとほかの学校でも、お知らせにQRコードで印刷したり、そういうことができる。

Q. 研修したものはすべて記録として残しておき、それをインターネットのサイトで共有できるようにし、たとえば、新任の先生には必ず、すき間の時間に目を通してもらう。理解度の簡単なチェックをしてもよい。それなら重複した研修で先生の時間を奪うこともない。質問するコーナーを作ってもよい。既存の市のサイトの仕組みの中でも十分対応できると考えるが、どうか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

市内の校長のものをやるかどうかは、まだ研究は進んでいない。今、学校の校長等に示しているものとしては、独立行政法人教職員支援機構というところでやっているeラーニングのシステムがある。これはなかなかすばらしいもので、特別支援教育にかかわらず、あらゆる教育課題についての研修がある。こういったものを活用し、学校の中で教員が分析コード等を深めていくという促しはしている。こういったことをより進めていきたい。

✨ 市内のすばらしい活動を盛り上げていこう

せっかく市内で校長先生がよい活動をしているのに、なぜそれを盛り上げようとしないのでしょう。よいものは皆で共有すれば、お互いに幸せです。外部のeラーニングもよいかもしれませんが、企業はどうしても利益重視の姿勢があります。市内の、ハートがある方々の活動を育て、全体で共有していくという発想が欲しいと思います。

(eラーニングを活用するにしても)ちゃんとディスレクシアのことが具体的に示されているのかというところも、専門家と一緒に検討してもらいたい。

全校で統一したアセスメントが行われていれば、周知をわざわざ別途行わなくとも、アセスメントを実施する際に、かなりインパクトのある周知が(全体的に)行われる。全体的な時間を有効に使えることになる。

合理的配慮も教員の裁量に任せるのか

 4問目の「合理的配慮」について。

🤝 合理的配慮とは

障害者差別解消法の第七条と第八条に規定されているもので、「障害のある人が、自分の権利利益を侵害しているような状況を見つけ、それを改善してくださいと求めてきたら、行政機関や民間事業者は、負担が過重にならない範囲でその障壁を取り除かなければならない」というものです。なお、障害者差別解消法では、民間事業者の方は「障壁を取り除くよう努力しなければならない」という努力規定になっていますが、東京都の条例では民間事業者も「取り除かなければならない」という義務規定になっています。令和3年の法改正で、障害者差別解消法においても、民間事業者の義務規定化が予定されています。

 学校の授業において、ディスレクシアの子どもに合理的配慮が必要になるのは、次のような場面だ。

  • 教科書を読む場面
  • 黒板の板書をノートに書く場面
  • テストの問題を読む場面
  • 作文や記述式の解答など字を書く場面

 書くスペースを大きくしたりの工夫をされているという答弁だった。それはとても大事だが、まだ網羅的ではない。というのも、先ほどから申しているように、すべての必要な子どもがまず見つかっていない。潜在数からすると270人ぐらい見つかっていない。そういう子どもたちに、どういう合理的配慮が必要なのかが把握できていない。テストをどうするのか、板書をノートに写すのはどうするかといった問題もある。

Q. 書くスペースを大きくしたり、書く量を減らしたりという工夫は、すべての学校で行われているわけではなく、対象の児童・生徒がいるクラスのみで行っているのか。また、個々の先生にその裁量は任されているのか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

合理的配慮は一人一人に合わせた配慮であり、ユニバーサルデザイン化と違う。したがって、全校で統一した同じようなことではない。

 ただ、どのようにしたらよいかが重要。ここについては、先ほどの巡回相談等の活用が考えられる。言語聴覚士に関しては19回と言ったが、臨床発達心理士等も含めると、各校で5回以上やっているような状況もある。言語に特化していなくても、さまざまな多面的な視点からのコンサルテーションをもとに行っていく合理的配慮ということでは、各学校にコンサルテーションできるような体制をより進めていきたい。

データが集まれば共通して行える部分も出てくる。個々にやっていると教員の負荷がどんどん上がる部分もある。共通化が必要なところもある。

デイジー教科書・デジタル教科書を再生するタブレットも無償であるべきでは

 教科書については、マルチメディアデイジー教科書というのが、ディスレクシアの子どもに有効なケースが多い。現在、特別支援学級にはタブレットが4人に1台用意されている。ただ、そうでない学校にはタブレットが配備されていない。つまり、マルチメディアデイジー教科書があってもそれを再生する機材がない。ご相談くださった方は、ご自分でタブレットを購入し、再生している。

 しかし、学校教育法では

  • 小学校においては教科書を使用しなければならない
  • 必要な方にはデジタル教科書を教科用図書にかえて使用できる

と定められており、加えて、教科書無償給与制度では次のように定められている。

  • 小・中学校の教科書は無償で提供する

Q. これを併せると、「デジタル教科書は無償で使用できる」というふうに条文解釈できるが、小平市としてはどう解釈しているか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

デイジー教科書については、たしかに無償で利用できるので、同じような趣旨で考えている。

Q. デイジー教科書は無償で提供されているが、再生する機械がないと使用できない。すると、再生する機械も一緒に無償で提供されるという解釈になると思うが、どうか。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

平成28年に合理的配慮の法施行がなされ、その趣旨からいくと、物的配慮ということは進めなければならないものとして認識している。

Q. 現在見つかっている合計56人の方に関しては(デイジー教科書の有効性を確認してからだと思うが)、タブレットをすぐ支給するぐらいのことをしてほしいが、どうか。1台4万円弱程度で、最大でも200万円ぐらい。ふるさと納税の損失額に比べたらずいぶん微々たるものだと思うが。

A. 教育指導担当部長(国冨 尊)

繰り返しになるが、物的配慮は重要なものとして認識している。なるべくそういった環境を整えたいと思っているが、すぐできるかどうかということは、今後の研究課題。

先ほどから言っているが、子どもにとっては1年が重要だ。私たち大人が考えているような時間軸ではない。本当にこれは早く進めていただきたい。270人も潜在数がいるというのは、しっかり考えなくてはならない。子どもたちは、なかなか自分のことを言葉で表現できない。けれども感性は鋭い。だから「大人たちが本当に頑張っているか」ということは、すごく感じているところだと思うので、ぜひ市のほうとしても頑張っていただきたい。

市のサービスにおける合理的配慮のワーキングチームを作っては

 ディスレクシアのお子さんたちの話をしてきたが、成長して高校生、大学生、社会人になっても、その困難さの根本的なところはなくならないと言われている。つまり、学校以外の市のサービスにおいても合理的配慮が必要だ。

Q. 市職員への研修資料を拝見したが、ディスレクシアは「学習障害」でひとくくりにされている。すると、私もそうだったが、実感がなく、記憶に残らない。具体的な例や困難さについて、生の声をしっかり提示していただき、ここでも実際にそういうお子さんがいらっしゃる保護者の方や本人に来ていただき、一緒に研修資料を作成するとか、そういったワーキングチームを作って進めてはどうか。

A. 健康福祉部長(柳瀬 正明)

現在、職員向けの研修資料としてあるものについては、今お話のあったとおり、内容については、障害の特性としては、さまざまなものがある中で、ディスレクシアについてはちょっと内容が薄いということがあるのかもしれない。今後、機会を捉え、内容等見直しをしていく際には、さまざまな声を聞いて見直しを行っていく。

以上