誰も見過ごさないためのアセスメント

🔎「誰一人取り残さない」という言葉について

教育委員会は、SDGsの「誰一人取り残さない(no one left behind)」という言葉をよく使います。しかし私はこの言葉があまり好きではありません。「取り残される場所があり、そこに誰かがいる」という差別的な発想に基づいた視点だからです。私は「見ていながら気付かない=見過ごす」の否定形である「見過ごさない」という表現の方が好きです。そのため、ここでは「誰も見過ごさない」という表現を使います。

いかにして「誰も見過ごさない」を実現するか考えると、「担当教員の裁量で発見する」といった属人的な判断によるスクリーニングを主軸に据えるべきではありません。見落としの可能性が高いだけでなく、ただでさえ忙しい先生方の負担をさらに増やすことにもなります。誰も見過ごさないためには、合理的な判断基準による、統一的かつ網羅的なアセスメントを行うことが最適です。アセスメントで得られた結果の補足や、何らかの事情で調査が行えない子どもたちに対応するため、担当教諭による判断などの属人的情報を活用することが理想と私は考えます。

アセスメントとスクリーニングについて

アセスメントとスクリーニングという用語を用いました。一応ここで解説しておきます。どちらも日本語としては定義があいまいなまま使われていることが多く、辞書を調べても「査定」「審査」「検定」「評価」といった意味が出てくるため、違いが分かりにくい言葉です。語源を調べると、スクリーニングはscreen「広く覆うもの/窓やドア用の網」から来ています。一方アセスメントは、assess「課税のために資産の量を決定すること」から来ています。つまり、スクリーニングは「広範囲のふるい分け」、アセスメントは「一定の判断基準に基づく個別の評価」と区別ができると思います。

参考:screening, assessment, evaluationの違いは?

「誰も見過ごさないためには、統一的かつ網羅的なアセスメントによるスクリーニングが必要」ということになります。カタカナ用語はあまり使いたくないのですが、短く表現できる日本語がないため仕方ありません。

東京都教育委員会のアセスメント

東京都教育委員会が、小・中学校用に、非常によいアセスメントのマニュアルを提供しています。

残念ながら小平市はこれを活用していません。理由は不明です。

その他のアセスメント

鹿児島県総合教育センター 平成23年度

特別な教育的ニーズのある児童生徒に対するアセスメントに基づく学習指導の在り方に関する研究

読み書き評価 URAWSS
読み書きに困難が疑われる小中学生の評価キットです。読み書きの速度を評価する目的で開発されており、支援技術導入を考える上でヒントを提供するものです。学校の先生、心理職の方のみならずご家族でも簡単に実施可能です。介入の効果測定・中学生以上の標準値が一部加わった改訂版の[URAWSS II]が2017年7月より販売開始となりました。(リンク先サイトより)

改訂版 標準 読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)
小学1年生から高校3年生までの音読速度を調べることのできる速読課題や、漢字の音読年齢が算出できる漢字音読課題、中学生用の漢字単語課題などを加えて出版いたしました。本邦で唯一ひらがな、カタカナ、漢字の3種類の表記について比較できる検査であり、どの表記から練習したらよいのかの指標が得られます。さらに速読課題は文章課題を含んでおり、高校や大学入試で試験時間の延長を希望する際の客観的な資料となります。(リンク先サイトより)

シャイウェッツのディスレクシアスクリーン(Shaywitz DyslexiaScreen)

イェール大学のシェイウィッツ氏が考案したスクリーニングです。シャイウェッツ氏は、国際ディスレクシア協会(IDA)が「ディスレクシア」という用語を定義した際のプロジェクト主要メンバーの一人です。

2018年12月にトランプ大統領が署名した、超党派の刑事司法法案であるファーストステップ法(First Step Act)に、ディスレクシアのスクリーニング方法として、次のような規定があります。

ディスレクシアスクリーニングプログラムとは、
(A)有効性が証明された心理測定基準を備えたエビデンスに基づいたものであり、
(B)効率的で低コストであり、
(C)すぐに利用できるディスレクシアのスクリーニングプログラム
を意味する

これらを満たす最適なものとして、シャイウェッツのディスレクシアスクリーンが手を挙げています。

Shaywitz DyslexiaScreen

ディスレクシアと犯罪を結び付けないために

その他参考資料

ディスレクシアスクリーニングに関する4つの神話