APA DSM上の分類

アメリカ精神医学会(APA)によるDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)という書籍も、WHOのICDと同様に、歴史的には統計基準という側面から精神障害(Mental Disorders)を分類しています。現在この書籍は「精神医学における臨床医と研究者が精神障害の診断と分類(および治療や研究)に使用するもの」とされており、診断や治療、研究のための判断基準として世界的に用いられています。

DSM-5の中で、ディスレクシアは次のように分類されています。

DSM-5

DSM-5
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 ├ 神経発達症群/神経発達障害群(Neurodevelopmental Disorders)
   └ 限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder)
     ├ (315.00(F81.0)) "impairment in reading"(読字不全)
     ├ (315.2(F81.81)) "impairment in written expression"(書字表出不全)
     └ (315.1(F81.2)) "impairment in mathematics"(算数不全)

限局性学習症の項に関しては次のように記載されています。(以下は安竹による翻訳であり、学術的な正確さは保証しません

【診断基準】

A. 学習上や学力の面での困難さについて、なんとか対応しようと対策したにもかかわらず、次の症状の少なくともひとつが、少なくとも6ヵ月間継続している。

  1. 不正確に、もしくは時間がかかりながら、努力して単語を読む(例:単一の単語を不正確に読み上げる、または時間をかけながら躊躇して読み上げる、しばしば推測する、読み上げに困難さがある)

  2. 読まれたものの意味を理解することが難しい(例:文章を正確に読むことはできているようだが、文脈が分からない、関係性が分からない、推論できない、より深い意味が理解できない)

  3. スペル(書字)に困難さがある(例:母音や子音が多すぎたり、足りなかったり、置き換わったりする)

  4. 書字表出に困難さがある(例:文章内で文法や句読点の間違いが何度もある、段落の構成が悪い、考えていることの表出に明瞭さがない)

  5. 数の感覚、数的事実(四則演算の暗算)、または計算の習得に困難さがある(例:数字そのものや、数字の大きさ、関係に対する理解が低い、一桁の足し算をする際に同年代の子がするような暗算をする代わりに指で数える、計算の途中で分からなくなってやり方を変える)

  6. 数的推論に困難さがある(例:数的な概念、事実、または手順を、定量的な問題を解決するために適用することが著しく困難)

B. 影響を受ける学力が、本人の年令から期待される学力を、定量的かつ大幅に下回っており、そのことが学業または職務上、もしくは日常生活における活動において著しい支障をもたらしている。このことは、個別に実施された標準化された達成度測定法と、包括的なアセスメントによって確認される。17歳以上の個人の場合は、これまでの学習上の困難さの状況を記載した文書が、標準化されたアセスメントの代替になるであろう。

C. 学習の困難さは学齢期に始まるものの、学業上の課題が個人の能力を超えるまでは、完全に顕在化していないと考えられる(例:時間を決められたテスト、短期間に長くて複雑なレポートを読んだり書く課題、過度に重い学業上の負荷)

D. 学習の困難さが、知的障害、視力、聴力、その他の精神的または神経学的障害、心理社会的な逆境、学習指導における言語能力の欠如、または不十分な教育指導などと比べると、考慮されていない。

注記: 上記4つの診断基準は、個人の病歴(発達、医学、家族、教育)、学校の報告書、精神教育上のアセスメントなどを、臨床的に、総合的に判断して満たされます。


コード指定に関する注記: 障害のあるすべての学術領域とサブスキルを指定します。複数の領域に障害がある場合は、次の指定子に従い、それぞれ個別にコード指定してください。

コードを次の分類で指定してください:
315.00 (F81.0) 読字不全:

  • 単語読解の正確性
  • 読みのスピードまたは流暢さ
  • 読解力

注: ディスレクシアは代替用語であり、正確または流暢な単語認識に問題がある、デコード能力が低い、綴りの能力が低い、という、学習における困難さのパターンを表すものです。もしディスレクシアという用語を、この特定の困難さを特定する際に用いる場合に、読解力や数的推論(math reasoning)といった他の困難さが存在するのであれば、それらを特定することも重要です。

315.2 (F81.81) 書字表出不全:

  • 綴りの正確さ
  • 文法と句読点の正確さ
  • 文章表現の明快さやまとまり

315.1 (FBI .2) 算数不全:

  • 数の感覚
  • 数的事実の暗記
  • 正確または流暢な計算
  • 正確な数的推論

注: ディスレキュリア(Dyscalculia)は代替用語であり、数値情報の処理、数的事実の学習、正確又は流暢な計算を行うことに問題がある、という困難さのパターンを表すものです。もし、ディスレキュリアという用語を、この特定の困難さを特定する際に用いる場合に、数的推論や単語推論の正確さといった他の困難さが存在するのであれば、それらを特定することも重要です。


程度を指定してください:

軽度: 特に就学期間に、1つか2つの学問領域において学習能力の困難さを抱えるが、適切な環境調整(appropriate accomodations)や支援サービスを受けられる場合には、その困難さを補えたり、または良い状態を維持できるような、十分に軽度な状態。

中度: 就学期間に、1つ以上の学問領域において、一定の間隔をおいた集中的かつ専門的な教育指導が提供されない場合には、それらの学問領域には堪能な状態ではいられない可能性のある状態。正確かつ効率的な活動を行うためには、学校、職場、家庭において、適切な環境調整や支援サービスが、少なくとも生活の一部として必要とされている状態。

重度: 重度の学習障害があり、いくつかの学問領域に影響を及ぼしている。そのため、ほとんどすべての就学期間において、個別の、継続かつ集中的な専門的教育指導がなければ、これらの学問を習得できそうにない。一連の適切な環境調整や支援サービスが提供されても、その人はすべての活動を効果的に行えない可能性がある。

精神障害という語弊と、便宜上の分類であることについて

歴史的に日本では「精神障害」という言葉に強い差別意識と偏見を持つ方が多くいます。これを社会的スティグマと言い、負のイメージがついてしまった用語はなかなか変えられません。

本来、精神障害に分類されているさまざまな状況は、生物学上の原因が明らかではなく、お互いの関連性も原理的には定義できないものです。しかし、診断を行ったり統計をとる際には、多様な状況をまとめるための用語が必要になります。そういった便宜上の要請から「精神障害」という用語が作られたものと考えられます。しかしその用語が一般社会に流通すると、本来の意味は忘れ去られ、単純化され、ひとり歩きして特殊な意味を持つようになります。

差別と偏見の原因は、実際はさまざまな症状があるにもかかわらず「精神障害」というひとつの単語にまとめてしまっている点にあると、私は考えています。

ですので、普段の生活においては「精神障害」という便宜上の用語は忘れ、可能な限り細分化した名称(ディスレクシアなど)を使うことが理想的だと思います。つまり、関係が不明なものとは一緒にせず、ディスレクシアはディスレクシアとして捉えようということです。

ただし、ディスレクシア自体も便宜上の用語であることには違いはありません。実際はさまざまな状況があり、それぞれに適切な対応が必要です。

参考資料